vol.4 さざれ石
君が代の歌詞の中に「さざれ石のいわおとなりて」という歌詞があります。「さざれ石」というのは小さな石という意味でしょうけれど、小さな石が岩になる、というのは現代人の常識ではおかしな話です。自然界の形のあるものは長い年月の間に風化されて小さくなっていきます。大きな岩が小さい石になるのが自然の姿だと言う事は、今では子供でも知っていますが、君が代の原型が出来た平安時代の頃は、石のような生物でないものにも生命があり、成長して大きくなり子供も産むと信じられていた時代ですからやむを得ません。
それに、例えば「白髪三千丈」というように、ありえないことを言ったり歌ったりする例は他にもあります。言ってみれば詩的表現とでもいいますか、日本が末永く栄えるように、との願いを込めた歌詞だと解釈すればいいと思います。今回の話はその事ではなく、私が「さざれ石」なるものを実際に見た話です。しかも、この一年ほどの間に三度も「さざれ石」を見たので、お話しいたします。
一度目は、歴史好きが集まって行った奈良県の十津川村(とつかわむら)の村役場の駐車場でした。「さざれ石」なるものが実際にあるとは前から聞いていましたが、目の前で見た時は興奮しました。形は小さな小石がたくさん集まって、セメントのようなもので固められたようなものでした。高さ1m50cmくらい、巾は1mくらいの大きさで、石灰質角礫岩(かくれきがん)と言うらしく、説明文によると岐阜県の春日村で発見されたそうです。石灰石が水に溶けたなかに、普通の小石がなにかの原因でまぎれ込んで、徐々に固まってしまったものだそうです。現在は春日村と岐阜県の天然記念物になっていると書いてありました。
私が興奮したのは、「さざれ石がいわお」となった現物を見たからですが、言ってみればこれも自然現象の一つです。石灰石という接着剤で小さな石がたくさんくっついて、大きな岩になったのですから、まさに「さざれ石がいわお」となったのには違いありません。ただ、君が代の語感からは少し違和感があります。君が代の歌詞は、小さな石が自然に大きな岩になるイメージですが、小石が表面にぶつぶつと出ている「さざれ石」は、「そうかなぁ」という感じです。
二度目は石川県の小松市にある、安宅の関の跡にある神社の鳥居の前でした。あの義経と弁慶が関所を通るために大芝居を打った、勧進帳で有名な関所の跡にある神社です。何気なく通った鳥居のそばにあり、この時も驚きました。ここのは十津川より小さくてタテヨコ70cmくらいの大きさでした。十津川と同じ物のようで、小さな石がたくさんくっついた石でした。やはり「さざれ石」と書いた丁寧な案内板があり、地元の熱心な人が岐阜県春日村から運んで神社に寄進したと書いてありました。
三度目は栃木県の葛生町の美術館に、板谷波山の作品を見に行った帰り、物産館に立ち寄った時です。たくさんのみやげ物の片隅に置いてあり、値段は書いてありませんでしたが、売り物のようでした。大きさは床の間に飾れるくらいの高さ30cmくらいで、二つほどありました。この時もびっくりしてよく見てきましたが、形状は十津川と同じ物で、やはり岐阜県春日村産と書いてありました。なぜあるのかはわかりませんでしたが、葛生は石灰石の採掘が地場産業ですから、関連はあるのかもしれません。ここは筑西から近いですから興味のある方は行ってみて下さい。美術館のすぐそばです。
と言う訳で、短い間に「さざれ石」に三度も続けてお目にかかるというのはやはり何かの縁があるのかと思わざるを得ません。 こんなに「さざれ石」に縁があるのなら、と思ってインターネットで「岐阜県春日村」を調べてみますと、村の中に「さざれ石公園」というのがあって、いつでも「さざれ石」が見られるようになっているようです。地図を見るとかなりの山の中のようですが、今度暇を作って行ってみようと思っています。
栄進堂印刷株式会社 永島正樹
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