筑西市ナビ「ちくナビ!」

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リレーエッセイ

vol.10 就活とソーセージ

ある調査によると、今年の就職活動を表す一文字は『楽』だという。

たしかに、今年度の就職活動は、団塊の世代の大量リタイヤが問題視される2008年問題や、2006年初頭からの好景気に後押しされ、売り手市場の感があった。
そのため、就職氷河期に比べれば、かなり『楽』に採用されるようになったようだ。

しかし、私の就職活動は決して『楽』ではなかった。むしろ『苦』だったのではないか。

就職活動において重要なことは、
・自分を見つめ(自己分析)
・企業を見つめ(企業分析)
・内定へ向けて努力すること(試験対策、面接対策)
である。

その中で私は、自己分析というものに一番煩わされた。
いままで自分自身を深く見つめたことがなく、
中学⇒高校⇒大学という進路も、全て『なんとなく』で決めてしまっていた。

そんな自分が、この就活で人生最大かもしれない選択を行なう。
自分の過去、現在、未来を見つめ、自分の道を決める。
その道の上で、自分ができること、やりたいことを想い描く…。
…到底、そんなのできっこなかった。

また、『なんとなく』で就職してしまえばいい。…そんなことさえ考えていた。


ある朝、午前4時。ふと目が覚めた。
本日の予定は無し。気の進まない自己分析や、試験対策を進めるつもりだった。
カーテンを開けると、外は暗闇。3月はじめ。
ガラス越しに冷気が漂ってきた…。寒い。
布団にくるまり、横になると、あるべきそこに枕が無い。
どうやら寝ぼけてベッドから落としてしまったようだ。

(なんだよ…。もう寝るなってことかよ…。)

目だけが虚ろで、頭が冷気で冴えていく中、ふとひらめいた。

(そうだ、スキー行こう。)

財布の中のお金がギリギリなことも、
ある企業の面接が1週間後に迫っていることも全て分かっていた。
分かっていたが、衝動は止まらず、10分後には家を出ていた。
目指すは、ここから200km先のスキー場。

(就活のことは今日は忘れよう。今日はスキーを思いっきり楽しもう!)
そう思って出発した一人旅。しかし、様々なハプニングに見舞われた。

まず、お金が足りなくなった。リフト代金を払うのに、あと30円。
スキー場の駐車場のお兄さんに、『あの~、すみませんが…』と頼み込み、
缶コーヒーと交換して30円ゲット!

ようやくリフト券を手に入れ、いざ銀世界。
しかし、1年ぶりに出したスキー板は、片足の金具が壊れ、ブーツがはまらない状態。
修理するにも、板をレンタルするにも、手持ちのお金はゼロ。

…というわけで…

その日は、片足のスキー板だけで滑りとおした。
昔から、おふざけでやっていた『片足滑り』が、思わぬところで役に立ち、
一日じゅう片足でスキーを楽しめた。


私は、このソーセージを食べるたび、あの一人旅を思い出す。

幾つものハプニングが起きたあの日。
あの日から、自分の中に沸々と『熱い』何かが環流している。

そしてあの日に経験したことは、少なからず自分の『旨味』になっていると思う。
行動力、対応力、衝動力、活力、バイタリティー、アグレッシブさ。
あの日、自分が感じた自分の力は、言葉にしてしまえば簡単だが、
言葉にする以外にも、沢山の『旨味』が自分の中に存在する感覚を覚えた。

そう、あの日から。
あの日から、私は自分に怖れず自己分析できるようになった。
いいとこも、悪いとこも。
全部認めた上で、その全てが自分の『旨味』であると確信できるようになった。
そして、その『旨味』とともに、道を歩んでいこうとする『熱い』自分がここにいる。

私は、このソーセージを食べるたび、あの一人旅を思い出す。
熱々で、沢山の旨味が凝縮されたこのソーセージを。
そしていま私は、このソーセージを食べながら、
将来そこにいるであろう、熱々で、沢山の旨味が凝縮された自分を想い描いている。

どうぞ、このソーセージを、クァトロ・アネッリで。
http://www16.ocn.ne.jp/~anelli/

筑西市在住 栗原 崇

 このコーナーは、筑西市に、在住、在勤など、筑西市に関わりのある方を繋ぐ'リレーエッセイ'です。バトンを受け取ってくださったすべての方に感謝致します。バトンを受け取った方は、以下の内容を次の走者の方にお伝えください。

(1)このエッセイは、「ちくナビ!」の企画で「ちくナビ!」に掲載されるということ。
(2)このエッセイは、筑西市に、在住、在勤など、何らかの形で、筑西市に関わりのある方の'リレーエッセイ'であること。
(3)エッセイに書く内容に、何ら制限のないこと。(宣伝なども可)
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(5)原稿料はないこと。
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リレーエッセイ執筆者(敬省略)

  1. M.W
    しあわせ夫婦
  2. 栗原 崇
    就活とソーセージ
  3. H.G
    万日元服式を迎えて
  4. 匿名
    古文書から見える近世のすがた
  5. 藤木理成
    所謂ロック
  6. 黒坂晃平
    黒髪の正体
  7. 永島正樹
    さざれ石
  8. 佐藤典哉
    人生の一回性(VOL2)
  9. 小峰尚
    人生の一回性について
  10. 大武正夫
    クールビズについての一考察